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ライフウィズスポーツ協会インタビュー:中村祥子&三好大倫

内に秘めた想いとともに、それでも舞台に立ち続ける

中村祥子さんと三好大倫さんが語った、プロの身体、引退、そして次の人生

バレエの舞台に立つダンサーと、グラウンドで戦うプロ野球選手。
この二つを並べると、多くの人は、ずいぶん離れた世界を思い浮かべるかもしれません。

けれども今回の対話で見えてきたのは、むしろその距離の近さでした。

身体ひとつで評価されること。
痛みを抱えながらも立ち続けなければならないこと。
指導者や環境が、その後の人生にまで影響すること。
そして、現役でいられる時間が限られているからこそ、「その先の人生」を早い段階から考えざるを得ないこと。

今回の対談は、ライフウィズスポーツ協会が掲げるアスリートのセカンドキャリア支援や、スポーツを通じた社会とのつながりという視点とも重なります。
舞台とグラウンド。まったく違うように見える二つの世界が、実は同じ問いを抱えていることを、静かに、しかしはっきりと教えてくれる時間でした。

プロフィール

中村祥子

K-BALLET公式プロフィールでは「名誉プリンシパル」として紹介。ローザンヌ国際バレエ・コンクールでの受賞後、シュツットガルト、ウィーン、ベルリン、ハンガリーなど、海外の主要なバレエ団でキャリアを重ね、日本を代表するバレエダンサーの一人として活動を続けている。

三好大倫

中日ドラゴンズの公式入団発表では、2020年ドラフト6巡目、左投左打の外野手として紹介。ライフウィズスポーツ協会の公式発表では、元中日ドラゴンズとしてスーパーアンバサダーに就任。引退後も、スポーツや地域と関わる活動を広げている。

ライフウィズスポーツ協会

スポーツを通じて人生を豊かにすることを目的に、アスリートの現役引退後まで見据えた支援、地域との連携、教育・啓発活動を行う一般社団法人。セカンドキャリア支援は中心となる事業の一つに位置づけられている。

美しさも力強さも、地味な基礎から生まれる

対談の序盤で印象的だったのは、中村さんが、野球選手を見ている先生のトレーニングを、自分の身体づくりにも取り入れていると語ったことでした。

バレエは、外から見ると華やかな芸術です。しなやかで、軽やかで、優雅に見える。
けれども、その内側では、きわめて高度な身体の操作が行われています。軸を保つこと。重心を乱さないこと。床をしっかり踏むこと。上半身は静かに見せながら、下半身で強く支えること。しかもそれを、音楽や役柄と重ねながら行う必要があります。

その意味で、バレエは決して、ただやわらかく美しいだけのものではありません。徹底して鍛えた身体の上に成り立つ、精密な表現です。

一方、野球もまた、踏み込み、体重移動、軸の安定、身体の連動の正確さがものを言う競技です。
つまり、表現の形は違っても、「どう身体を使うか」という根っこの部分では、バレエと野球はつながっている。今回の対話は、そのことをとても生き生きと伝えてくれました。

さらに中村さんが語っていたのは、基礎の大切さです。
日本では、どうしても派手な技や見せ場に目が向きやすい。けれども、本当に大切なのは、その前にある地味な基礎だというのです。立ち方、ライン、体の向き、動きのつながり。そこを飛ばしてしまうと、一見すごく見えても、長い目で見ると伸び悩みやすい。

この話は、バレエの世界に限りません。野球でも、華やかなプレーの前には、反復練習と地道な基礎があります。人の心を動かす瞬間は、いつだって見えない土台の上に生まれる。そんな当たり前で大事なことを、あらためて思い出させてくれる話でした。

「代わりがいる世界」で生きるということ

二人の言葉がもっとも深く響き合ったのは、けがと痛みの話でした。

三好さんは、現役時代、腰の痛みを抱えながらも、それを簡単には口にできなかったと振り返ります。理由は単純です。痛いと言えば、出場機会を失うかもしれないからです。自分の代わりが入り、そのままポジションが遠のいてしまう可能性がある。だから無理をする。けれども、その無理がさらに状態を悪くしてしまう。
この構造は、プロスポーツの厳しさをよく表しています。

中村さんもまた、出産後の身体の変化と、それに伴う痛みについて語りました。股関節の不調が、別の部位への負担につながっていく。それでも舞台では、優雅に見せなければならない。ここに、バレエならではの厳しさがあります。

野球では、苦しさが表情や動きににじむこともあります。けれどもバレエでは、どれだけ内側が苦しくても、観客に見せるのはあくまで美しさです。
痛みを隠しながら、美しさを保つ。それは、想像以上に大変なことです。

さらに、バレエの世界では、役の立場によって状況も変わります。主役級を担う立場と、複数人で作品を支える立場とでは、けがをしたときの戻り方も違う。代役がそのまま残ることもある。
野球にもバレエにも共通していたのは、「代わりがいる世界」で生きる緊張感でした。華やかさの裏には、常に入れ替わりの可能性がある。その現実を、二人はとても率直に語っていました。

失敗を恐れすぎないこと

野球には、「三割打てば一流」という感覚があります。
十回のうち七回はうまくいかなくても、それでも打席に立ち続ける。それが競技の前提になっています。

一方、バレエは、舞台の上でのミスが目に見えやすい世界です。
しかし中村さんは、ミスを恐れて引いてしまえば、かえって良い舞台はできないと語りました。本番では、準備してきたものを信じて出し切るしかない。怖さをなくすのではなく、怖さを受け入れて挑む強さをもつ。その覚悟が必要なのです。

ここで印象的だったのが、中村さんが、出産後に舞台との向き合い方が変わったと話していたことでした。若い頃は、逃げ出したくなるほど舞台が怖かった。けれども、子どもを持ったことで、怖さの種類が変わった。舞台はおびえるものではなく、楽しむものだと思えるようになった。
長いキャリアを生きてきた人の言葉だからこそ、その変化には重みがあります。

完璧であることよりも、準備を尽くしたうえでその一歩へ踏み出す。
この姿勢は、芸術にもスポーツにも、そして私たちの仕事や暮らしにも通じるものだと感じました。

セカンドキャリアは現役のうちに考える

今回の対談が、ライフウィズスポーツ協会の活動と深く重なるのは、ここです。協会は、アスリートが引退後も社会の中で役割を果たし続けられるよう支援することを、明確に活動の目的として掲げています。

三好さんは、プロ野球選手としての現役期間が決して長くないことを率直に語りました。若い選手が次々と入ってくる世界では、立場が変わるのも早い。しかも、引退後に野球だけで生計を立て続けられる人は限られています。華やかな引退はむしろ少なく、多くの人は静かに現場を離れていく。
その後の制度的な支えも、まだ十分とは言えない。だからこそ、現役のうちから次を考えなければならないのです。

バレエの世界も、形は違っても本質はよく似ています。
所属先によって条件は異なり、踊り続けられるかどうかは、年齢、けが、団の方針、配役、監督の意向など、さまざまなことに左右されます。中村さんが感じていたのは、「踊れる時間は永遠ではない」という現実でした。だからこそ、終わりの先を見据えることも、今の一部だと感じます。

セカンドキャリアとは、引退後の再就職だけを指す言葉ではありません。
それまで積み上げてきた経験を、どんな形で社会に返していくかを考えることでもあります。今回の対話は、その視点の大切さをあらためて教えてくれました。

日本のバレエ育成が抱える難しさ

中村さんの話で、とりわけ一般の読者に知ってほしいと感じたのが、日本と海外でのバレエ育成の違いでした。

海外には、学校教育とバレエの専門教育がつながり、その先でプロを目指せる環境が整っています。
一方、日本では、本格的にバレエに進もうとすると、進学や学歴との両立が難しくなりやすい。つまり、競技や表現のために多くをかけた人ほど、その後の選択肢が細くなりやすいという問題があるのです。

さらに中村さんは、日本では華やかな部分だけが先に注目されやすいことにも危機感を持っていました。かわいい衣装、派手な技、分かりやすい見せ場。それらは入口としての魅力があります。けれども、本来のバレエは、その前にある地味な基礎の積み重ねがあって初めて成り立つものです。
このずれが、子どもたちの将来に影響してしまうかもしれない。そこに、中村さんの強い問題意識がありました。

そしてこれは、指導する側にとっても難しい問題です。
基礎だけでは、子どもは飽きやすい。楽しさを感じられなければ、続けられないかもしれない。けれども、楽しさばかりを優先すると土台が育ちにくい。
この板挟みのなかで、本当に大切なものをどう伝えていくのか。対話は、日本の育成現場が抱える迷いや葛藤まで映し出していました。

指導者の影響は、その後の人生にも及ぶ

対談では、指導者の存在の大きさについても語られました。

野球では、監督やコーチの考え方が、試合に出られるかどうかや、どのように成長していくかに大きく影響します。バレエでもまた、教える人や見ている人の価値観が、踊り手のキャリアに強く関わります。
つまり、本人の努力だけではどうにもならない要素が、どちらの世界にもあるということです。

それでも、時代は変わっています。
かつては、強い言葉での指導や厳しさが、そのまま当然のものとして受け止められる場面もありました。いまは、それが見直されつつあります。それ自体は必要な変化です。

ただその一方で、必要なことまで言えなくなってしまうと、育成は難しくなる。厳しさをなくすことと、本当に伝えるべきことまで手放してしまうことは、同じではありません。
この点も、二人の話からにじんでいた大切な論点でした。

交わることで、新しい価値が生まれる

この対談が前向きな余韻を残したのは、最後に未来の話へと進んでいったことです。

野球とバレエは、違うからこそ学び合える。
野球の身体づくりは、バレエに新しい視点を与えるかもしれない。バレエのしなやかさや姿勢、身体感覚は、ほかのスポーツや教育の現場に返していけるかもしれない。

さらに話は、フィギュアスケート、ファッション、障害のある子どもたちへの活動などにも広がっていきました。スポーツと芸術が分かれて存在するのではなく、交わることで新しい価値が生まれる。その感覚には、これからの時代への希望が感じられました。

ライフウィズスポーツ協会は、スポーツを通じて人生を豊かにし、アスリートと社会がともに成長する未来を目指しています。
今回の対話は、その理念を机上の言葉ではなく、一人ひとりの実感をともなう経験として見せてくれるものでした。

舞台もグラウンドも、身体ひとつで勝負する場所です。
そして、その身体で積み上げてきたものは、現役が終わった瞬間に消えるわけではありません。むしろ、その先にこそ、子どもたちや地域社会へ返していけるものがたくさんある。
今回の対談は、そのことを静かに、しかし確かな力で教えてくれました。

編集後記

今回の原稿をまとめながら、何度も印象に残ったのは、「違う世界の話をしているようで、実は同じことを語っている」と感じる瞬間の多さでした。

バレエと野球。芸術とスポーツ。華やかさと力強さ。表に見えるものは大きく違っても、その奥にあるのは、身体を鍛え、痛みを抱え、指導を受け、競争のなかで居場所をつくり、その先の人生まで考え続けるという、とても人間らしい営みでした。

ライフウィズスポーツ協会の意義は、そうした経験を「現役で終わるもの」にしないところにあります。現役を終えた人の知見を、次の世代へ、地域へ、社会へ、どう手渡していくか。
今回の対談は、その問いに対する一つの答えを示していたように思います。

ライフウィズスポーツ協会 都竹

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