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「アウト1つが嬉しい」から始まった──週2回の女子野球部を支える“環境づくり”とセカンドチームのリアル

文・構成:佐藤太加寛
取材:ライフウィズスポーツ協会アンバサダー 三好大倫(元中日ドラゴンズ選手)

「打ったらサードに走る」「取っても、どこに投げていいか分からない」。そんな“ゼロからのスタート”だった女子野球部が、少しずつ勝てるチームへと変わっていく。
現場にあったのは、根性論ではなく、続けられる仕組み支える人の存在だった。

今回話を聞いたのは、桜花学園大学女子野球(軟式)を長年支えてきた葛谷監督(大学職員)。高校球児として愛知県大会決勝まで進んだ経験を持ちながら、赴任先で出会ったのは「野球部」と呼ばれつつも、週2回・2時間で活動する“サークルのような”チームだったという。

「勝ってほしい。でも、やめない程度に」
その言葉に、大学女子野球のリアルと希望が詰まっていた。

高校野球の“決勝”まで行った外野手だった

葛谷監督へのインタビュー

「ポジションは外野です。自分たちの代は愛知県の決勝まで行けた学年で、レギュラーじゃなくても誇りはありますね。」

出身は豊田西高校。強豪の背中を追いかけて入学し、決勝で中京大中京高校に敗れた。結果は大差だったが、全国で戦う相手の強さを肌で知った世代でもある。

「負けたけど、中京大中京高校が甲子園で智弁和歌山を一番苦しめたって言って、自慢してました(笑)」

“勝つための野球”の世界を知っているからこそ、後に出会う女子野球の価値観は新鮮だった。

女子大に赴任して初めて知った「野球部の別世界」

「ちょっと問題なんですけど(笑)、就職した時、女子大って知りました。野球部に関わってって言われたので、男子の部活のイメージでいたら、世界が違っていました。」

練習は週2回・2時間。授業が終わってから集まり、試合がある。監督やコーチといっても、普段の練習に毎回参加できるわけではなく、仕事終わりに関わる形だった。

「最初のイメージは“少年野球”ぐらいでした。」

部員には野球経験者だけでなく、ソフトボール経験者、そして完全初心者も混在していた。

「打ったらサードに走る」から始まったチームづくり

「全く野球が分からない子もいました。打ったらサードに走るとか、取ったらどこに投げていいか分からないとか、そもそも取れないとか。」

試合に行ってもフライが取れない。アウトが取れない。
守備位置を“動ける・動けない”で決めても、ファーストがボールを取れず、ゴロを投げてもアウトにならない。

「だから“戦術がどうこう”じゃなくて、基礎からです。まずは『ここが大事だよ』って教えるところから。」

ただし、週2回という制約がある。練習量で押し切れない。だからこそ、取り入れたのが“遊びの要素”だった。

ゴムボール野球と「当てたらアウト」ルールが、空気を変えた

「僕がいいなと思ったのが、子どもの頃にやった“ゴムボールを手で取る野球”。手で取る感覚って大事なんです。」

さらに特別ルールとして、こうした。

「一塁に投げなくても、打った子に当てたらアウト。」

これが“投げる練習”にもなる。何より、試合に近い形で「アウトを取る」体験が積める。

「まず楽しくボールをいじれる、打てる、っていうのが大事。楽しくないと、多分やめちゃう。」

女子野球は、勝利だけでなく「当たった!」「アウトが取れた!」という小さな成功が、チームを前へ動かしていく。

7回までいかない試合、2回で終わる試合もあった

女子野球(軟式)は7イニング制だが、実態は時間制(100分)で、試合が成立しにくいことも多い。

「7回まで行ったことないですね。大体3回ぐらいで時間が来ちゃう。下手したら2回で終わったこともあります。」

それでも人数が増え、教えられる子も増え、同じレベルの相手に勝てた時は“感動”だった。

「勝つのはやっぱり楽しい。アウト1つ取るのが楽しい、っていう世界からスタートして、ちょっとずつ勝ちたい世界に入ってきた感じです。」

グラウンドは“自分たちで作った”──草を削った2013年

女子野球の課題は、技術以前に「場所」がないこと。

「元々違う大学さんのグラウンドで試合をやってたんですけど、別のクラブ活動が強くなって“そっち優先ね”ってなって取れなくなった。」

そこで、大学の敷地内のスペースを整備して使うことになった。始まったのは2013年頃。

「学生たちがスコップで芝生みたいな草を削って、みんなで綺麗にして使いましょうって。」

使わないと草が伸びる。だから“使い続ける”こと自体が、環境維持になる。

「自分のやる環境を自分で作る、ですね。」

ボールは減る。山に入ったら“探さなくていい”

設備も十分ではない。ゲージはない。ネットも最小限。ボールも練習のたびに減っていく。

「用水まで飛んでいくこともありますけど、山に入っちゃうと危ないんで、逆に“探してこなくていい”って。」

冗談のようでいて、現場の安全と現実を背負った判断でもある。

衰退する大学女子野球──“支える人”が足りない

最大の課題は、競技人口でも資金でもなく、回す人がいないことだった。

「学生だけで何かやってくっていうのに限界が来ている。指導者っていうより、サポートする人が必要なんじゃないかなって思います。」

他大学では、練習の時しか大人に会えない。学校との交渉も学生がやる。大会の段取りも自分たち。
それができなくなって、チームが消えていく。

「関東はしっかりした部活をやってるけど、東海や関西は“去年いたのに今年いないね”ってチームが出てきちゃう。」

コロナ以降、課外活動が減った影響も直撃した。以前は全国大会に30以上の大学が出ていたが、今は13〜14程度まで減っているという。

勧誘は「野球」ではなく「楽しいサークル」を売る

部員は登録で15人ほど。ギリギリ。
しかも「部員数=練習参加人数」ではない。

「練習の時に9〜11人来たら嬉しい。」

勧誘は“野球ができる人”だけを集めるのではなく、続けられる場としての魅力を伝える。

「野球部って名前だから野球のことじゃなくて、“楽しいサークルだよ”ってアピールした方が絶対入ります。」

全国大会も“試合以外”の楽しみが大事だという。

「海に行ったり、花火したり、美味しいもの食べたり。そういうのもないと続かない。」

目標は「ベスト4」──でも勝つには“試合の課題”がある

最高成績はベスト8。

「トーナメントのいいとこに入って、1回勝ったらベスト8っていうのはあるんですけど、それでもいい試合しました。」

そして今年の目標はベスト4。
ただ、監督は手応えがあるからこそ、試合で出る“もったいなさ”も感じている。

「メンバー見ても、昔のことを知っているので。ちゃんとしたら勝てるよねって思うんですけど、試合になると…こっちの問題かなっていう。」

練習量が限られるからこそ、試合の“心と準備”が結果を左右する。

勝ちたい。でも、やめない程度に。
そのバランスの中で、チームは前へ進んでいる。

葛谷監督(大学職員)について

高校時代は強豪校で外野手としてプレーし、愛知県大会決勝まで進出。就職後、女子大学で女子野球(軟式)チームに関わり、初心者を含む混成チームの育成と運営を長年支える。練習は週2回・2時間という制約の中で、ゴムボール野球など“楽しさから入る”指導を重視。グラウンド整備や外部との調整など、競技以前の「環境づくり」にも尽力している。

取材を終えて

「勝ちたい」は、時に厳しさを生む。
でもこの現場の「勝ちたい」は、続けるための希望として存在していた。

アウト1つが嬉しい。ボールが当たったことが嬉しい。
そこから、少しずつ勝利へ向かう。

その過程を支えているのは、才能でも根性でもなく、場をつくり、回し、つなぐ人だった。

大学女子野球の課題は、実はスポーツ全体の課題でもある。
「誰が支えるのか」──その問いに向き合うことが、競技を未来へ残す第一歩になるのだと教えられた。

そして取材を通して、あらためて強く感じたのは、環境は“与えられるもの”ではなく、つくられてきたものだということだ。プロの世界にいると、ボールがある、グラウンドがある、道具が揃っていることが当たり前になりやすい。けれど、この現場では、草を削ってグラウンドを整え、ボールがなくなる心配をしながら、それでも「続ける」ための工夫を積み重ねてきた。
その姿に、スポーツの原点──“好きだから続けたい”という思いを見た気がした。

「勝ってほしい。でも、やめない程度に。」
葛谷監督の言葉は、優しさではなく、現場を長く守るためのリアルな覚悟だった。勝利だけを追えば、続かない。楽しさだけでも、伸びない。限られた週2回の時間のなかで、その両方を成立させようとする挑戦が、今このチームの“セカンドチームのリアル”を形づくっている。

この輪が、選手だけでなく、支える人・地域・企業へとつながっていけば、女子野球はもっと強く、もっと長く続いていく。そう確信できた取材だった。


「速い球ほど、ゆっくり振る」

大学女子野球の現場で、選手たちが語った“続ける理由”

—三好によるインタビュー記録—

グラウンドに立つ選手たちの表情は明るい。
しかしその裏には、初心者と経験者が同じフィールドで競技する、大学女子野球ならではの難しさがある。

三好は選手たちに、静かに問いかけた。

「ボールを捕ってから投げる時、どっちの足を出してる?」

「左足で捕って、右足を踏んで投げます」

小学校から野球やソフトボールを続けてきた選手にとっては自然な動作だ。
しかし、大学から始めた選手にとっては、それ自体が新しい学びになる。

「強く投げることよりも、まずその動作が大事だよね」

三好はそう言いながら、選手たちの様子を見つめていた。

「最初、ボールが握れなかったんです」

インタビューの中で、ソフトボール経験者の選手が口を開いた。

「ソフトボールをずっとやっていて、大学から野球を始めました。最初、野球のボールが握れなかったです」

ソフトボールより小さい野球のボール。
距離も長く、バウンドも違う。

「全部違いました。でも、打球がちゃんと飛んだ時、すごく嬉しかったです」

その言葉には、純粋な喜びが込められていた。

「寝る時に、“また打ちたいな”って思うくらい楽しいです」

競技を続ける理由は、勝利だけではない。
“できた瞬間”の記憶が、次の練習につながっていく。

「フライが取れた時、拍手をもらいました」

キャッチャーを務める選手は、少し照れながら話した。

「フライがすごく苦手なんです。でも試合で取れた時、相手チームからも拍手をもらいました」

アウト一つの重みを、誰よりも感じている。
さらに、全国大会で盗塁を刺した経験もあるという。

「絶対アウトにしたいと思って投げました。アウトになった時は、本当に嬉しかったです」

三好はその話を聞きながら、静かにうなずいた。

一つのプレーが、選手の自信になる。
それが次の成長を生む。

経験者と初心者が同じチームでプレーするということ

大学女子野球の特徴の一つは、経験者と初心者が同じチームでプレーする点にある。

経験者は勝利を目指す。
初心者はまず、楽しむことから始まる。

「初心者の子がついてこれなくなると、試合ができなくなるんです」

選手はそう語る。
競技としての向上と、チームとしての継続。その両立は簡単ではない。

三好はその話を受けて言った。

「勝てるようになると、悔しい気持ちも出てくるよね」

勝つ経験は、意識を変える。
それは初心者にとっても同じだ。

打席で考えるのは、たった二つのこと

話題はバッティングへ移る。

「打席では、何を考えたらいいですか?」

選手の質問に対し、三好は少し考えて答えた。

「考えすぎないことが大事だと思う」

そして続けた。

「大事なのは、タイミングとポイント」

さらに、こう付け加えた。

「速い球ほど、ゆっくり振るイメージ」

速い球に対して焦るほど、タイミングは崩れる。
ゆっくり入ることで、見えるものが増える。

それは技術論であると同時に、経験から生まれた言葉だった。

学生が支える、大学女子野球の現場

インタビューの中で見えてきたのは、競技そのものだけではない。

試合日程の調整、メンバーの勧誘、グラウンドの確保。
多くのことを、学生自身が担っている。

それでも選手たちは、野球を続けている。

「楽しいから続けています」

その言葉はシンプルだった。

「また練習したい」その気持ちが、未来をつくる

インタビューの最後、選手たちの表情は穏やかだった。

特別な環境ではない。
十分な設備があるわけでもない。

それでも、グラウンドに立ち続ける理由がある。

ボールを捕ること。
打つこと。
アウトを取ること。

その一つひとつが、次につながっていく。

大学女子野球の現場には、競技の原点があった。

そして、それを支える人と環境の重要性もまた、静かに浮かび上がっていた。

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